台風を理由にできなかった

まあ、前も貼ったけど、
http://u-1.parfait.ne.jp/text/
ここの「オー」の中の一篇ということで。そのうちサイトにも掲載する。
なんか二年ぶりじゃね?もちろん全然文章力は上達しておりません。

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「便箋歌」

0:
 夢の中から、無理矢理現実への扉をこじ開ける。そんな形容がとても良く似合うくらいの目覚めだった。すでに緊張している。

時間は?
…予定よりも十分はやく起きた。

 仕事は休み。平日なら、仕事帰りの時間で行くしかない「ファイトクラブ」に、今日は最初の試合から行く事ができる。しかも今日の目玉試合は、これ以上無いくらいの鉄板だ。ファイトクラブのベテランファイター、ヘイヤン・W・ブラックドックと、デビューして5年と日は浅いが、いままで無敗のルーキー、ネット・ベレアセートの試合。

 成績だけ見れば、良い勝負になりそうだと思いがちだけど、一つ一つの戦いぶりからみれば、ブラックドックの方が遥かに格が上だ。確かに彼は無敗では無いけれど、それは彼が、このファイトクラブが賭博であり、エンターテインメントであることを十分に理解しているから。でも今回は、対戦相手となる、べレアセートの無敗記録は打ち破りたいはず。確実に本気で挑んでくるだろう。そうなれば勝負はもう決まったも同然だ。

 着替えて、適当に朝食を取る。夜はもっと豪華なものが食べられるぞ、と思いながら、部屋を出ようとした。そこで、下駄箱の上に置いてある請求書が目に入って、少し気分が沈んだ。そうだ、昨日は結構負けたんだよな…。
 家に着くまで、深い自己嫌悪と、今後の生活費の計算しかしてなかった気がする。その計算の中に、今日の試合の事も入っていた。一応、そのための種銭は確保しておいた。

でも、これを最後に、ファイトクラブは観戦のみにしようと思った。

「ナオキさん、おはようございます。今日はちょっと早いですね」
「あ、おはようございます」

 アパートの階段を降りたところの玄関の脇に、小窓があり、そこからコダマさんが挨拶してきた。このアパートには、管理人さんも住んでいる。小窓の中が管理人室兼自室というわけだ。メガネをかけてて、いつもボーっとしている印象なので、表情が読み取れない。別に読み取らなくてもいいんだけど…

「うん、今日はいつものところに行く前に、ちょっと会う人がいて」
「そうですか…あ、これ、ナオキさん宛ての手紙ですが、帰ってきてからにしますか?」
「あー…いや、今もらっておきます」

 手紙を受け取った。これから会う人っていうのは、この手紙が関係している。まあ、本当にちょっと気になる程度なんだけど。軽くお礼を言おうと、コダマさんの方に顔を向けると、コダマさんは急に顔をそらした。意味がわからない。

「…なんかしましたっけ、自分」
「いえ、ちょっと間があったもので。それでは、いってらっしゃい」

 顔をそらしたまま、これまたよくわからない返答をされた。

1:

 最近、「レストアーム」というグループが、仕事仲間内で話題になっていた。頼まれた依頼をこなす、いわゆる何でも屋らしい。まあここまでなら、そこらへんの探偵や、自治警察に頼めばいい話なんだけど。噂になってるのは、その依頼達成率の高さと、依頼達成までの時間の圧倒的な短さ。
 ただ一つ問題があるのは、謝礼の多さや内容の善し悪しに関係なく、依頼を断る事があること。それでよくやっていけるな…と、一応仕事している身として思った。
 ファイトクラブの前に会う相手というのが、実はその「レストアーム」だったりする。待ち合わせ場所に着いたので、辺りを見回してみる。左腕に黒の長手袋が目印だって聞いてたけど…

「…ナオキさんですか?」

 背後から声をかけられ、振り向くと、少女がいた。銀色のセミロングヘアーに、目印である左腕の長手袋。一見どこにでもいそうな、普通の女の子だった。

「はい。もしかして…レストアームの人ですか…?」
「ええ、オーといいます。よろしくお願いします」
「あ、ああ…そうなんですか。聞いた話から、ガタイのいい男性だと思っていたので…」

 オーと名乗った女性は、クスリと笑い、

「ああ、はい。私は最近手伝いで入ったんですよ。ガタイのいい男性は今、別の用事に行ってるんです」
「そうでしたか。あ、僕もこのあと用事があるので、本題にはいりますね」

 懐から、さっきコダマさんから受け取った手紙を出した。

「依頼というのは、この手紙の事です。おそらく同じ人から、たびたび届くので、ちょっと気になって」
「見せてもらっていいですか? …差出人の名前がありませんね」
「はい。その差出人を探し出してほしいんです。その手紙はオーさんに預けます」
「いいんですか?個人的なものですし、見たところまだ未開封ですが…」
「大丈夫です。きっとまた、本文は何も書いてありませんから」
「何も書いてない…でも、イタズラにしては、綺麗でかわいらしい封筒ですよね。ラブレターだったりして」
「そ、そんなありもしない事を期待しているわけじゃないです。何の目的で、差出人は、僕にこんなものを送ってくるのか、聞きたいだけです」
「へえ、結構律儀なんですね。普通ならただのイタズラって割り切りますよ」
「ん、まあ、ちょっとハッキリさせといたいだけなんで。それじゃ、よろしくお願いします」

2:
 ナオキさんは私に手紙を預け、人ごみの中へ消えていった。
さてと…とりあえず、手紙が配達される順と逆にたどっていくしかないかな。彼のアパートへ行ってみようか…。

 彼のアパートは、高架下にひっそりとあった。アパートにしては珍しく、二階までしかない。私は、いろんな物に対して、その歴史や移り変わりを知らないからよくわからないんだけど、こういうのを「レトロ」っていうのかな?
 アパートの入り口まで来た。立地条件の割に、意外に明るく、上を通る車の音は、思ったほど響いてこない。結構穴場かもしれない。

「おじゃましまーす…」
「あら、いらっしゃいませ。どなたかに御用時ですか?それとも、入居希望者の方でしょうか?」
「あ、いえ、こちらに住んでいる、ナオキさんにちょっと頼まれ事を。住む場所を探していたなら、ここに決めていたかもしれませんね」

 管理人とおぼしき女性は、それを聞いて少し微笑んだように見えた。メガネのせいではっきりとはわからなかったけど。

「ありがとうございます。意外に静かで、良い場所でしょう?アパートの周りの木々が、車の騒音をうまい具合に消してくれるんですよ。ところで、…ナオキさんからのたのまれ事ってなんでしょうか?」

3:
「…嘘だ」
 今日の目玉試合が終わった。結果は、新人べレアセートの、無敗記録更新。アナウンスは、べレアセートの展開に、ブラックドックがうまく乗ることができなかったと言っていた。
 それはありえない。その気持ちは、周りの多くの常連客も同じだったようで、チケットを床にたたきつける人や、いまは誰もいないリングに向けて罵声を浴びせている。僕はそんな事をする気力もなかった。

「どうでした?今日の試合」

 声の主はなんと今朝のオーさんだった。彼女は隣に座った。まさか、もう差出人の場所をつきとめたのだろうか。いや、それよりも…

「ど、どうしてここにいるってわかったんですか?どこへ行くとも言ってないのに」
「ふふ、偶然ですよ。ほら、例のガタイのいい男性がここにいるんです。彼を迎えに来たら、ナオキさんがたまたまいたんです」
「そう、そうだったんですか…」
「それで、今朝、依頼料の事を確認しておくのを忘れていた事を、今、思い出しました」
「あ…あ、それは…」
「負けてしまいましたね、ブラックドック。ナオキさんはどちらに賭けていたのでしょうか? …ごめんなさい、いじわるが過ぎましたね」
「…いえ。依頼料は、払えません。申し訳ありません」
「そうですか。実はもう、あの手紙の差出人がわかったのですが…残念ですが、教えることはできませんね…」
「え! …あ、いえ、すみません。なんでもないです。全部自分のせいですからね…」

 僕は力なく立ち上がり、別れの言葉を言おうとした。と、彼女は、リングの方を見たまま、こう言った。

「ナオキさん。かわりに、このファイトクラブにまつわる、面白い話を教えてあげましょうか?」
「…はい?」
「多分、私はあなたよりもずっとここに詳しいですよ。聞いて損は無いと思います」

 僕はどうせ、しばらくは何もすることはできないし、何かをやろうって気にもなれなかった。このまま帰っても寝るだけだから、

「わかりました。聞くだけ聞きます」

そう言って、再び腰を落とした。ほかの客は、あるものはうなだれ、あるものは意気揚々とした様子で、ポツポツと帰りはじめていた。

「今日のこの試合の予想は、ほとんどの人がナオキさんと同じだったと思います。まあ、普段の試合なら、タイマンではなくバトルロイヤル形式がメインですから、主催側と客側のバランス、うまく取れています。では、今日のような、あからさまなイベント試合では、普通にやって、主催側が利益を得られるでしょうか?そんなわけありませんよね」
「まさか…出来レースだったとでも?」
「はい。そのまさかです。胴元が儲けない賭け事は存在しません。まあ、ときには本当にサービスで、奮発する事もありますけどね」
「で、でも、そんな事していたら、客は離れていきませんか?」
「離れていってますか?」

彼女はさらりと、僕が聞いた事を、そのまま聞き返してきた。僕は、自分の言っていることがよくわからなくなってきた。確かに、今日うなだれて帰っていった客は、明日も何食わぬ顔をして、ここへやってくるだろう。昨日の僕自身がそうであったように。

「あからさまなイベント試合に、客が気付こうが、気付くまいが、必ず主催側が利益を得られるように仕込みますし、なるべくならその仕込みに気付かせない努力もしています。そして、今回の出来レースは、実はそれだけではなく…」

彼女はそこで言葉を飲み込んだ。そして…

「これを言ったら、あなたに本気で怒られるかもしれません」
「…いえ、言ってください。もう少しで、何かがふっきれそうな気がします」
「わかりました。実は、私がここへ迎えに来たガタイのいい男性とは、ブラックドックの事です。そして、彼に八百長をさせたのは、私です」

「何故かって?単純な計算です。あなたからの依頼料と、ブラックが勝った時の賞金よりも、わざと負けた時に主催に頂ける謝礼の方が、ずっと多いからです」

 僕は大きく息を吸って、ゆっくりはいた。

「あっはっは!いや、ありがとうございます。あなたが男だったら、掴みかかっていたかもしれませんが」
「本当に、ごめんなさい」

 言葉は謝ってはいたけど、彼女は悪ぶれる様子も無く、それが自然な事のように、やわらかい表情をしていた。僕の怒りは、すぐにどこかへ消えていった。さっき自分で言ったように、本当にふっきれた気分だ。

「ひとつだけ、教えてください。僕が今日ここに来る事、いや、ファイトクラブに出入りしてること、わかっていましたよね?でなければ、そんな計算はできないはずです。いつから知っていたんですか?」
「今朝会った瞬間です。さっきも言いましたが、私はこのファイトクラブについては、あなたよりもずっと詳しいです。試合を見に来る人たちが、普段どんな眼をしているか、どんな表情をしているか、よくわかっています。独特ですからね。あなたも例外ではありませんでした」

 僕は心のどこかで、周りの常連より、少し上の視点で居るつもりでいた。第三者から見れば、結局はどちらも同じだったのだ。

「まいったな…でも、すごい観察力ですね」
「たいしたものではありませんよ。でも、あなたは、実際に話してみると、すごく能動的で、責任感のある人だなあ、と思いました。ちょっと意外でした」
「僕、そんな格好良い話、してましたっけ?」
「はい。だって、ギャンブルやってる人って、自分の生活と交遊以外の事に、余計なお金を使いにくいじゃないですか。でもあなたは、自分の生活を少しあとに回してまで、私たちに依頼をしたはずですよ?」
「それは…単に僕のお金の使い方が、馬鹿なだけかもしれませんが」
「確かに馬鹿ですね。でも、私たちに依頼をした事は、馬鹿な事ではないと思いますよ」
「はい。もう答えはわかっています」

 僕は立ち上がった。さっき一度帰ろうとした時より、少しだけ元気を取り戻した気がした。所持金はちょっと、致命的なくらいヤバイけど…。

「あ、ナオキさん」

 彼女はごそごそと自分のポケットをさぐり、何かをさしだしてきた。

「依頼を、こちらの勝手な理由で、反故にしてしまったお詫びです。このカードがあれば、賭けることなく、ファイトクラブを観戦する事ができます。観るだけといっても、本来なら入場料代わりに、少しでも賭けなければいけませんからね。もう賭け事はしない自信がついたら、また観に来てください」
「わかりました。ありがとうございます」
「あともうひとつだけ。依頼内容の件ですが、私たちに頼まなくても、あなた自身が動けば、必ずわかるはずですよ。頑張ってください」

─こうして僕は、ファイトクラブを後にした。

(とりあえず、今溜まっている支払いと、手紙の事だけに専念しよう。特に家賃は…コダマさん、不思議と何も言ってこないからつい甘えてしまってたっけ…。とりあえず、家に帰ったら謝っておくか)

これからの事を考えながら、さっきもらったカードをよく見ようとして、ふと気がついた。というか、貰った時に気付かなかっただけなのだけど。カードを持つ指をずらす。

「あれ…なんで、二枚あるんだろう」

4:
「メガネやめて、コンタクトに変えてみたら?って言ってみたけど、多分変えないだろうな…あの照れた表情、私でもドキっとするくらいだったのになあ。…あれ、ブラック、いつから見てたの」
「いや、割と最初から。なんか男だったら掴みかかるとか言ってたから、こわいので隠れてた」
「…いや、あなたが出てきたら彼、逆に逃げ出してたと思うけど」
「まあいいや。それより、べレアセートの奴、八百長だと知らずに調子に乗りやがって。次当たったら真っ先にぶっ倒す」
「あー、あそこだけはやっぱり演技じゃなかったんだ。ちょっとさすがにあれは痛そうだった」
「フン、レストアームの方の依頼でなきゃ、八百長は二度とごめんだ。でも、俺がワザと負けることが、『あいつにギャンブルを止めさせる』っていう依頼達成になったのか?」
「うん、なんとかね」
「変に守銭奴ぶらないで、最初から全部話してしまえば…あー、それだとギャンブルをやめるとっかかりができないのか。まったく、オーはうまいこと話をすすめられるもんだな」
「今日は簡単だったからよ。だって、物語の登場人物は二人しかいなかったから。念のため、またギャンブルをやりださないための、『保険』も入れておいたけど、ちょっとヤボだったかな?」

全然降らなかったし。

昨日小説かいてて4時間も寝てないまま仕事して
コンパイル全然通らないまま
23:45に帰ってこれたので
いまからカレーを作って食ったあと
小説しあげてぴ☆さんのメッセにほおりこむ予定です。
何時になるんだよ!!!死ぬ!!!!

ていうか、9/5はコーヒーしか飲んでなかったし…

あとミギーさんがメールの返事全然しないので
イライラして怒った。
デフレスパイラル